本記事は、全国保険医団体連合会が刊行する「月刊保団連」(2024年7月号)に掲載されています。
【月刊保団連】https://hodanren.doc-net.or.jp/publication/gekkan/2024-04/
弁護士が提供している代行サービスの場合、本人への連絡は避けるべし
Q.突然、見知らぬ差し出し人から「退職のご通知」という書面が届きました。ある従業員が退職を希望しているとの文面でした。当人には連絡しないでくれとありますが、確認したいこともあります。このまま認めなければいけないのでしょうか。
A. 書類を送ってきたのは弁護士ですか。それとも一般企業の退職代行業者ですか。
Q. 従業員の代理人弁護士です。
A. 弁護士には代理権がありますので退職に係る手続きは全て弁護士を通じて行うことになります。当人の委任状ぐらいは確認しておくことができます。
Q. それにしても退職することぐらい自分で言えばいいのに、なぜ弁護士に頼むのでしょうか。
A.先日、テレビでも退職代行について特集を組んでいました。特にゴールデンウィーク明けは退職代行が急増しているようです。労働者からすれば「今日退職を言うか。明日言うか」と悩んでいたが、「業者に頼んで辞められるならばありがたい」というわけです。
Q. 退職代行業者に支払う報酬はどのくらいですか。
A. 弁護士ではない場合は2万円程度から、弁護士の場合は5万円程度からが多いようです。
Q. 辞めるだけで5万円もかかるのですか。なぜ自分で言わないのでしょうか。
A. 職場によっては、上司が怖くて言い出せなかったり、思いとどまるよう説得されたりするのが面倒だというのもあります。
Q.私のところは就業規則に「退職する場合3カ月前に申し出る」となっています。それなのに、こんなに急に辞めてもいいのでしょうか。
A.いつ、代理人からの通知があったのですか。
Q.1カ月前です。
A.会社の承認がなくても、民法の規定により、原則として退職の申し出をした日から起算して14日を経過したときは退職となります。(民法第627条第1項)
Q.退職までの1カ月間は全て有給休暇にすると言っています。有給休暇を認めなければいけないのでしょうか。
A.労働者から有給休暇の申請があった場合、事業所が取れる対抗手段は時季変更権だけです。しかし、今回のケースは退職日が決まっているのですから、有給休暇を他の日に変更することはできません。
Q.こんな非常識なことは、昔は考えられませんでした。
A.今回の件は、これまでの労務管理を反省するチャンスかもしれません。退職は労働者にとっても大変な決断です。コミュニケーション上、風通しの悪い職場であったのかもしれませんし、退職について言い出しにくい雰囲気が職場にあったのかもしれません。
Q.私ほど従業員のことを考えている経営者はいないと思っていたのですが。
A.「働かせる側と、働かされる側」とでは立場はずいぶん違うものです。これを機に職場の雰囲気や人間関係を見直すなど、今一度働かされている側のことも考えてはいかがでしょうか。