
本記事は、全国保険医団体連合会が刊行する「月刊保団連」(2025年5月号)に掲載されています。
【月刊保団連】https://hodanren.doc-net.or.jp/publication/gekkan/2024-04/
退職勧奨がおすすめ
Q.友人医師の病院で、解雇した問題職員が訴えてきて裁判になりました。かなりの問題職員でその職員がいると、他の真面目な職員が退職してしまいそうなので、やむを得ず解雇したそうです。
A. いくら問題があっても簡単に解雇はできません。法律で「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き。社会通念上同等であると認められない場合は。その権利を濫用したものとして、無効とする(労働契約法第16条)」と定められています。
Q.問題職員は、ろくにあいさつもしない。誤字脱字が多い、よく会社の備品をなくすなど、普通の社会人として考えられない人のようです。
A.それでも裁判になると難しいです。私の知人の病院で「院長は認知症」などと発言する職員を解雇し、裁判になり敗訴しました。
Q. しかし院長を侮辱するような職員は解雇して当然じゃないですか。
A.それは我々中小企業で苦労している人間の感覚であり、裁判官の判断とは大きく異なります。
先述した裁判でも院長が思いの丈を述べましたが、全く届きませんでした。裁判官は感情的な面ではなく、客観的な「事実」を述べることを要求します。
問題職員への対応としてまずすべきことは就業規則の整備です。
Q.私の院所のように従業員が8人しかいなくても作成するのですか。
A.労働基準法では常時10人以上の労働者を使用している事業所では、作成し労働基準監督署に届け出ることになっていますが、10人未満でも作成しておいた方がいいでしょう。
従業員に周知すれば効力は発生します。特に重要なのは服務規律です。服務規律に先生の思の丈を記載することが大切です。その上で周知し運用することが大切です。
Q.運用とはどういうことですか。
A.規律上問題があればまずは口頭で、その後改善が見られない場合は書面で注意します。
どこの企業でも、横領や重大なハラスメントなどは、悪質な規律違反として懲戒等の処分対象となります。
Q.作成は専門家に依頼するのですか。
A.それも1つですが費用が掛かります。月間保団連の別冊『医療経営と雇用管理』にある就業規則(たたき台)を参考に作成するのもよいでしょう。
Q.その上で解雇事由に相当すれば解雇できますか
A.そうはいきません。規律違反があればそのたび注意し証拠を残しておくことが重要です。
注意するときは、これまでも紹介した「勤務等改善指導書」(通称:イエローカード)を使用し、解雇するのではなく「退職勧奨」を行ってください。「曽我事務所」のホームページの「様式集」のページでは4/1従業員への指導・手続き関係書類として書式例を掲載しています。
Q.退職勧奨ですか?
A.そうです。簡単に言えば「あなたは能力があるかもしれないうちには合わない。他の職場で能力を発揮してくれないか」と伝えて退職を勧めることです。
合意してくれれば「退職合意書」を作成します。突然の提案は拒否されることもあるので考える時間を与えてもいいと思います。
裁判は時間とお金の無駄です。極力話し合って退職してもらうようにしてください。