本記事は、全国保険医団体連合会が刊行する「月刊保団連」(2025年6月号)に掲載されています。

【月刊保団連】月刊保団連2024年6月号 - 全国保険医団体連合会

解雇裁判はお金と労力と時間の無駄

Q.いくら問題のある従業員であっても、簡単に解雇できないとのことでしたが(2025年5月号本欄参照)、日本の労働法制上そんなに解雇は難しいのでしょうか?

A. 労働契約法第16条で「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」となっています。

他方、見方を変えれば客観的な理由があり社会通念上相当であれば解雇できます。

しかし、「客観的な理由」を証明することはなかなか大変です。

Q.そうですか……。私の友人が会社経営をしています。友人が新卒の従業員を採用したところ、どの部署でも対人関係のトラブルを起こすなど評判が悪く、そこの所属長から何とかしてくれと言われたので配置転換をしているうちに15年経ってしまいました。

昨今この不況で資金繰りの悪化もあり、いよいよ当該従業員を解雇しました。その後、その従業員の知人弁護士の助言で労働裁判になり、1年ほど裁判で争いましたが解雇は無効になりました。

私も高齢になってきたので、そろそろ業務を減らして診療所の規模縮小を考えています。そのような場合であっても解雇は難しいのでしょうか。

A.難しいのです。簡単な事ではありません。

Q. 米国で大量解雇を行ったイーロン・マスクが経営する企業の日本法人でも解雇は難しいのですか。

A.外資系企業であっても事業所が日本にある以上、原則として日本の法律が適用されます。しかし、注意しなければいけないのは日本の企業と諸外国の企業では雇用の前提が違います。日本では一般的に職務を限定せずに学歴、職歴、面接の時の印象などでとりあえず採用し、その後適性を見て配置部署を決めます。

ところが世界の多くの国々では、新卒一括採用などという習慣はありません。初めからポストの値段(給料)は決まっています。採用活動はポストに空席が生じた時点で始まり、また当該ポストが必要ない場合には採用活動は行われません。さらに、そのポストにいる社員に期待される能力がなければ解雇します。日本ではこの能力の証明が大変です。職種限定で雇用するわけではないので、そのポストにふさわしい能力が無ければ配置転換を試みなければなりません。このような雇用主が一定程度努力してどこの部署でも務まらないことを明らかにしない限り、解雇は困難です。第一に、能力の評価も中小企業では十分にできないことが多いため、能力不足での解雇は事実上不可能です。

Q.業務縮小でも解雇が難しいとなるとどうすればいいのですか

A.雇用継続の努力をしても雇用継続が無理であることを明らかにし、退職していただく人が納得できるよに話し合うしかありません。解雇と言うより人員削減の必要背をよく説明し、合意して退職していただくよう努力することが重要です。解雇の裁判を傍聴するとよく分かりますが、中小企業において木興裁判はお金と労力と時間の無駄遣いになりがちです。

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