本記事は、全国保険医団体連合会が刊行する「月刊保団連」(2024年12月号)に掲載されています。
【月刊保団連】https://hodanren.doc-net.or.jp/publication/gekkan/2024-04/
パワハラを見つけたら、見つけた人がその場で注意するのがベスト。経営者から注意する場合は、パワハラ被害者当人の了解なしに、加害者に注意するべからず
Q.従業員20名程度の診療所です。スタッフの1人が「勤務終了後お話があります」と言ってきました。また退職の申し入れかと嫌な予感がしました。話を聞いてみると、私が信頼している看護師が最近入職した事務スタッフにパワハラをしているから、やめるように言ってくれということでした。
A. パワハラを受けているという被害者の話は聞かれましたか。
Q.私もまさか彼女がパワハラをしているとは思えなかったので、被害者とされているスタッフに聞いてみました。当人は「私が至らない点があるので、何もしないでください」と言います。そう言われた以上、私も何もするわけにもいかないと思い、しばらく静観していました。ところが訴えてきたスタッフが「先生に話しても何もならないからもういいです」と言ってよそよそしくなってしまいました。そのうちその新人スタッフが夫の転勤に伴い他県に転居し退職してしまいました。本来はどう対応すべきでしたでしょうか。
A.事業主は労働者を指揮命令する立場にあります。従って、働きやすい環境を提供するという「安全配慮義務」があります。
Q. そんな一般論ではなく、具体的にどうすべきだったかということが知りたいのです。
A.被害者とされる当人が加害者に何らかの対応をすることを拒否する以上、当人の了解なしに勝手に加害者とされる人に注意したりすることは慎重であるべきです。対応を誤ると、加害者とされている人が犯人捜しを始め、かえってトラブルが拡大します。この場合は報告してくれた方に、例えば「当人がそっとしておいてほしいと言っている」など途中経過を知らせておくことは最低限すべきと思います。そうしておけば「先生に言っても無駄」ということを防げる可能性があります。
Q. そんなことで解決しますか。
A. パワハラで一番難しいのは証拠です。一般人は警察官のように捜査に慣れていませんから証拠集めに苦労します。パワハラ関係の書籍は、ほとんどの場合弁護士が執筆した裁判例の紹介です。ハラスメントにはグレーゾーンがあり、証拠がはっきりしていない場合では迂闊な行動ができません。
Q.何かいい方法はありませんか。
A.ハラスメントがないとされていても周知・啓発し、研修会などの開催が重要だと思います。例えばパワハラをしているといわれている人を報告者にするのも一つの方法と思います。報告する時に気づきがあるかもしれません。本来であれば、パワハラの現場を見た人がすぐに被害者に寄り添って相談に乗り、加害者に「それパワハラですよ」と指摘できるといいと思います。
中には生まれつき持った性格で前兵庫県知事のように人の痛みを理解するのが難しい人がいるようです。このような人に「人の痛みに気づいてください」と言っても何の効果もありません(津野香奈美著『パワハラ上司を科学する』ちくま新書)。パワハラをする人の中には優秀とされている人が多いので厄介です。
おりしも12月は「職場のハラスメント撲滅期間」です。厚生労働省でも様々な取り組みが実施されます。YouTube上に動画もありますので、ぜひこれらを活用して職場ぐるみでハラスメント撲滅に取り組んでください。