
本記事は、全国保険医団体連合会が刊行する「月刊保団連」(2025年9月号)に掲載されています。
【月刊保団連】月刊保団連2025年9月号 - 全国保険医団体連合会
Q.採用後10日ほどで出勤しなくなってしまった職員がいます。連絡したところ「適応障害」の診断書が送られてきました。こんなことは初めてです。ただでさえ忙しいので、代わりの職員を採用したいと思います。この場合、解雇するにはどうしたらいいでしょうか。
A. まず、すぐに解雇はできません。ところで先生の院所に就業規則はありますか。
Q.従業員はパートを含めて8人ですし、そんなものはありません。いつも労働条件通知書を渡しています。
A.10名未満ですから、労働基準法上は労働基準監督署に届け出る必要はありません。それでも今後、労使トラブルを解決するためにも就業規則を作成し職員に周知することをお勧めします。当該職員と連絡は取れていますか。
Q. 電話にはなかなか出ませんでしたが、やっと連絡が取れ話すことができました。当人は、「医療機関で働きたいと思っていて、やっと勤められたのでぜひ回復するまで待ってほしい」と
言っています。診断書には休職期間は3ヶ月とありました。待っていられないので解雇したいと思います。
A.得策ではありません。めったにないことですが、仮に裁判になると裁判所はなかなか解雇を認定しません。
Q.裁判所はどんな時に解雇が有効と認定するのですか。
A.労働契約法では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効にする」となっています。
Q. 今回の場合、理由も社会通念上も解雇は認められませんか。
A.約束した通りの労務提供ができない状態なので解雇できそうに考えてしまいそうですが、裁判となると経営者側に厳しい裁判例が多くなります。メンタルの問題である適応障害の場合、業務起因性も多少あると見なされ、なかなか裁判では解雇は認められません。
Q.何とか辞めさせることはできませんか。
A.退職勧奨して、退職に同意してもらうのが最善です。
Q.退職の合意が得られるように努力しても合意ができない場合、最終的に解雇できますか。
A.過去の判例で、退職勧奨を受けた労働者が「退職届を提出しない場合どうなりますか?」と質問して「その場合解雇だ」と言われて提出した「退職届」が無効になった事例があります。これは強迫によるもので労働者の「真意」でないと判断されました。一方、勤務日数があまりにも短い場合は本採用拒否が有効となる判例があります。
いずれにせよ、従業員の主治医に聞くなどして職場環境改善の努力をしたり、よく話し合うことが重要だと思います。気軽に解雇ができると思われるかもしれませんが、思わぬ裁判に発展するケースもゼロではありません。そうすると先生の経済的、精神的負担など影響は相当なものです。日ごろから従業員とよくコミュニケーションを取りつつ、何か起こった時も冷静な対応を取ることが重要です。