本記事は、全国保険医団体連合会が刊行する「月刊保団連」(2024年9月号)に掲載されています。

【月刊保団連】https://hodanren.doc-net.or.jp/publication/gekkan/2024-04/

30人以上になったら賃金テーブルを作成しましょう

Q.「ベースアップ評価料」の新設に伴い、今後賃金をどのようにしていくかいろいろ考えています。これまで賃金の決め方など深く考えず、周りの状況を見て、このくらいならスタッフが不満なく働いてくれると思いながら賃金を決めていました。そもそも賃金とは何なのか、賃金制度はどうあるべきでしょうか。

A. 賃金は最重要の労務問題です。賃金についての不満はどの事業所でもあります。私の印象では協会・医会の先生方は従業員の賃金の決め方について会員同士で話題にすることが少ないと思います。ぜひ情報交換をしてスタッフが納得できる賃金に近づけていただきたいと思います。労働基準法で賃金は「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何(いかん)を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」とされています。

Q. 何だかよく分からない定義ですね。

A.賃金を巡っては混乱があります。以前、結婚祝い金を賞与として処理していた経営者がいましたが、これは労基法上間違いです。

 欧米ではジョブ型の給与体系が主流です。岸田首相が日本もジョブ型雇用に見直すと発言しています。ポストの仕事内容やレベルを明確にし、仕事の内容に応じて賃金を定めるもので、年齢、性別関係なく賃金を支払うということです。私も実際に業務基準書(ジョブディスクリプション)を作り、それに伴う賃金制度を作成しましたが、中小企業においては費用対効果が合いません。

Q. どういうことですか。

A.賃金を決めるには、「仕事調べ」といって個々のスタッフの仕事を何十項目と書き出してもらう必要があります。仕事を「見える化」し、その仕事を評価して賃金を決めるわけです。

Q. 仕事の中身が分かっていいのでは?

A. 実際にやってみると大変です。また日本では決められた仕事以外にも、細かい仕事は気が付いた人がやらなければなりません。

 従業員が30人未満規模の職場では個別に勤務年数、資格、役割などを勘案し、経営者の判断で賃金を決める方がいいと思います。

Q.病院などでは賃金テーブルがありますね。

A.30人以上では賃金テーブルを作成することをお勧めします。欧米では労働者が賃金を上げたければ高い賃金の仕事を探し転職します。日本では企業内でキャリアを積み、様々な仕事を体験し能力を向上させて賃金を上げていきます。それゆえ外国では契約違反とされている転勤や職種変更が、日本の企業では抵抗なく行われているのです。簡単に言えば欧米は会社を変えることで賃金を上げていき、日本は企業内の職種を変えることで賃金を上げていきます。もっとも、職種を変えなくても長期雇用を前提にしている日本の企業では毎年少しずつ賃金を上げていくのが一般的です。

Q.賃上げするとその時は少し喜びますが長続きしませんね。

A.「ぜいたくは翌日から日常になる」と言われています。今の日本では実質賃金は下がっているわけですから、満足のいく賃金は大変です。支払い能力の問題もあります。診療所などの場合、収入に占める人件費の割合は15%程度が適正とされていますが、いずれにしろ診療報酬の大幅引き上げなしには難しいです。