本記事は、全国保険医団体連合会が刊行する「月刊保団連」(2024年5月号)に掲載されています。

【月刊保団連】https://hodanren.doc-net.or.jp/publication/gekkan/2024-04/

労基署の立ち入りは「無料の高度なアドバイスサービス」!

Q.内科系の有床クリニックです。労働基準監督署(労基署)から「一般労働条件等に関する個別調査の実施について」という通知が来ました。税務署の調査は受けたことがありましたが労基署は初めてです。このような調査には応じなければならないのでしょうか。

A. 労働基準法・労働安全衛生法・最低賃金法を順守しているかどうかを確認する調査のことで、臨検ともいいます。調査を拒否することは基本的にはできません。調査に非協力的な姿勢を示すこともお勧めしません。労働基準監督官はその気になれば、捜索や差し押さえなどの強制捜査の権限もあります。どうしても対応できない事情がある場合には、調査の日時を変更できます。

Q. このような調査が来るということはスタッフの誰かが通報・密告したのでしょうか。

A. 労基署の調査には「定期監督、申告監督、災害時監督、再監督」があります。年度計画に従って行う定期監督が一般的ですが、通報に基づき行われる申告監督もあります。当然、労基署は誰が申告したかは明らかにしません。犯人捜しなどせず労務改善のチャンスと捉え、労働基準監督官から労務改善についていろいろ聞いた方がいいと思います。労基署の調査・臨検はある意味では無料の最も高度な「労務監査」です。

Q. 労働基準監督官にはどんな権限があるのですか。

A.労働基準監督官は司法警察官ですから、違反が見つかれば送検したり、逮捕したりすることもできます。先日も様々な不正行為を行った「ビッグモーター」を送検しました。

Q. 私も送検される可能性があるのですか。

A. 送検されるのは度々是正勧告しても全く従わず、労働基準法を守らない事業所です。過労死を出した有名な広告代理店は送検され罰金刑となりました。あまりにもひどい現行犯などでは逮捕もあります。私も労基署を訪問した際キャビネットの中に手錠があるのを見ました。

Q. そんな恐ろしい人たちが来るのですか。

A. 労基署は摘発機関ではありません。将来に向けて、労働者が人たるに値する生活を営めるようにするところです。労働基準監督官には一般の民間会社に勤務した経験のある人もいます。監督官になった理由を尋ねると、「勤めていた会社があまりにもブラックだったから、日本の労働者の労働条件を改善したい」という使命感を持った人も結構多いのです。

Q.残業代などきちんと計算していないので心配です。

A.残業代をさかのぼって支払うよう、是正勧告をすることがよくあります。

Q. どのくらいさかのぼるのですか。

A.法的には3年ですが、是正勧告では3~6カ月が多いです。残業代の未払いは従業員の最も不満の多い問題です。雇用契約書や労働条件通知書、就業規則などをしっかり作成し、正しく運用するべきです。数十年も昔のことになりますが、労働基準法の立案に従事した松岡三郎氏(法学者)が講演で「企業にとって一番大切なものは労働者。企業発展の原動力は労働者の健康的な笑顔。労働基準法を守ることが企業に労働者の健康的な笑顔をもたらす」と語ったことが今も印象深く残っています。