本記事は、全国保険医団体連合会が刊行する「月刊保団連」(2024年6月号)に掲載されています。

【月刊保団連】https://hodanren.doc-net.or.jp/publication/gekkan/2024-04/

解雇より、退職勧奨がお勧め

Q.看護師も含めて15名の診療所です。受付が退職したので新しい職員を採用しました。ところが半年もすると急に欠勤が増え、連続で休むようになってしまいました。どうもメンタルの病気のようです。傷病手当金請求書も送られてきました。このままずるずる休まれると業務に影響しますので解雇したいと思います。問題があるでしょうか。

A. 就業規則では解雇についてどのように定めていますか。解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当」であることが求められます。

Q. 就業規則には「精神または身体の障害もしくは虚弱老衰、疾病等によって、勤務に耐えられないと医師が認めた場合」に解雇することができるとあります。これがピッタリと当てはまります。これで解雇すればいいですね。

A. 形式的にはそうですが簡単ではありません。懲戒解雇ではないので、この職員が争う余地はあります。職場から業務ができないと判断されても、本人としてはもう少し休めば業務を続けられると主治医の診断を根拠に主張するケースもあります。あるいはしばらく労働時間を短くすれば回復すると主張する場合もあります。最悪、職場のいじめやパワハラがあったとして業務災害と主張することもあり得ます。仮に業務災害だとすると労働基準法の解雇制限により解雇できません。

Q. では解雇できないということですか。

A.できないことはありません。ただ様々なリスクがあるということです。リスクを避ける意味で、私は勧奨による退職をお勧めします。

Q. 解雇とはどう違うのですか。

A. 簡単に言いますと「あなたうちには合わない。よそで能力を発揮するためにできたら退職していただけないか」と退職を進めることです。その上で「退職届」か「退職合意書」を提出してもらいます。

Q. 退職届を出してもらうことで、その職員が失業給付上不利になると言ってきませんか。

A. 雇用保険法上は退職勧奨と解雇は同じです。退職勧奨による退職は会社都合の離職となります。通常雇用保険の被保険者期間が離職日以前の2年間に通算12カ月以上なければ失業給付を受けることが出来ません。しかし会社都合であれば特定受給資格者となり、離職日以前1年間に通算6カ月以上あれば受けることができます。病気などですぐに働けない人は原則1年に加えて3年間の延長も出来ます。また、傷病手当金も健康保険の被保険者期間が1年以上あれば退職後も受けることができます。こうした制度を本人に説明し、納得してもらったうえで「退職合意」することをお勧めします。

 ところで、この職員を採用するとき履歴書などをチェックしましたか。

Q.出身校も一流ですし、過去の勤め先もそれなりに知られているところでしたので採用しました。

A.履歴書を見るときは「あなたの職歴はここに書いてあるだけですか?勤務期間が数カ月だとしても全て書いてください。前職に在籍確認してもいいですか」と退職理由を徹底的に尋ねるだけでトラブルの8割を防げるという会社側弁護士もいます。特に空白期間のある人は理由も聞くことが大切です。「退職合意書」の書式は曽我事務所のホームページからダウンロードしていただくか、メールをいただければ添付して返送します。ぜひご活用ください。