本記事は、(株)通信文化新報が刊行する「通信文化新報」(2024年5月6日号)に掲載されています。
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仕事中のケガ。労災は治療費無料・休業補償もあります
Q. 私は勤め先で配達の仕事をしています。先日、バイクで配達中転倒し、怪我をしてしまいました。自力で病院に行って、健康保険証を使用して受診しました。骨折と診断され、全治3カ月です。その後、上司に電話で報告したところ、それは労災だから健康保険証を使ってはいけなかったと言われました。
A.そうです。仕事中のケガは労災となり、健康保険証は使えません。受診する病院には労災であることを申し出なければいけません。
労災保険と健康保険は別の制度です。医療費を払う機関が違います。仕事中や通勤が原因のケガは、国の労働保険から給付されるため、健康保険から給付がされないのです。また、労災が発生したら会社は労働基準監督署に報告する義務があります。これを怠ると「労災かくし」となり、会社が罰せられる場合もあるから、大変なことです。
Q. そうだったんですね。そうとは知らず、気が動転してしまい、会社には事後報告になってしまいました。病院でも、仕事中の事故とまでは申し出なかったので、いつものように健康保険証を使ってしまいました。ところで、これから3ヶ月も働けないため給料がなくなります。入院・手術の予定もあります。骨折が治るまでの、装具の購入も指示されましたがかなりの高額です。金銭的な負担が大きく、不安しかありません。
A. 休業中の賃金補償は労災保険から支払われます。労災では、治療費(装具含む)もタダになります。健康保険のように、3割払うこともありません。今回、健康保険証を使って払った医療費は、労災である旨、病院に申し出ていただくと、労災保険へ切り替えとなり、還付されます。
Q. それは手厚いですね。もしケガが治らず長期休養になったら、どのくらいの期間もらえるのですか?例えば健康保険から給付される傷病手当金は、1年6ヶ月が最大期間ですよね。
A.労災の給付に、期間制限はありません。原則として、補償するべき要件が満たされる限りは補償期間が続きます。要件は、次の通りです。
- 業務・通勤によって負傷・疾病にかかる
- 療養するため、労働することが出来ない
- その間、賃金を受け取っていない
一言に給付といっても様々な種類があります。あなたの場合はケガの治療費(療養(補償)等給付)と、休業中の金銭的補償(休業(補償)等給付)があてはまります。
療養(補償)は、病気やケガが治癒(症状固定)するまでの期間、給付されます。ここでいう「症状固定」とは、たとえ症状が残っていたとしても、その後の療養を続けても改善が期待できなくなったときも含めます。こういった状態でも、労災保険上は「治癒」とよびます。
休業補償は、最初の3日間は会社が補償し、休業の4日目から、労災保険の給付が始まります。先ほどの条件を満たす限り、期間の定めなく補償が受けられます。
基本的な補償部分として、賃金の60%を目安として休業日数をかけた分が給付されます。そこへ上乗せで、賃金の20%を目安として休業特別支給金が給付されます。お見舞金のようなものですね。つまり、休業中は賃金の80%が保障されると考えてよいでしょう。
Q.なるほど、よくわかりました。ちなみに、私は今66歳で、老齢年金も受給しています。その場合でも、併給可能でしょうか?
A.今回のような理由で休業補償の給付を受ける場合、老齢年金とは支給事由が異なりますので、どちらも減額されることなく併給出来ます。
労災保険は労働者を守る大切な制度です。自分の身にも起こりうる業務・通勤中の事故。いざその時になって慌てないよう、日ごろから制度に関心を向けましょう。