本記事は、全国保険医団体連合会が刊行する「月刊保団連」(2025年1月号)に掲載されています。
【月刊保団連】https://hodanren.doc-net.or.jp/publication/gekkan/2024-04/
小規模事業所のパートさんでも、年収が130万円を超えたら社会保険に強制加入
Q.年収103万円の壁が国会で議論になっていますが、社会保険の壁もなくなり今後パートも週20時間以上働くと社会保険に加入するという新聞記事を読みました。私のクリニックは、従業員1人は正職員で社会保険に加入していますが9人はパートです。このうち5人は週25時間働いています。この人たちも社会保険に加入させなければならないとなると保険料の負担が大変なことになります。労働時間の調整をしなければいけなくなりますか。
A. 税金の壁は103万円ですが、社会保険には106万円と130万円の壁があります。このうち106万円の壁を超えた場合、従業員が51人以上の事業所に勤めている方は社会保険に加入しなければなりません。先生のところは従業員50人以下ですから当面この壁は関係ありません。
Q.でも、私の懇意にしている菓子販売店の従業員は70人近くいますが、パートは社会保険に加入していませんよ。
A.厚生労働省のパンフレットにある51人以上というのは、「社会保険に加入している人が51人以上」という意味で、月額8万8000円、年収106万円以上は社会保険に強制加入することになっています。この51人というのは社会保険に加入している人数です。おそらくその事業所は、従業員数は70人近くいても週の労働時間が30時間未満の社会保険に加入する必要のない人が多い事業所で、社会保険に加入している人が50人以下だからパートの人は社会保険に加入していないのだと思います。
Q. 今は問題ないということですね。
A.そうです。ただ、今後は年収や従業員数に関係なく週20時間以上働く人は全員社会保険に加入させるということで、厚労省の審議会で話が進んでいます。そうすると新たに200万人、厚生年金加入者が増えると見込んでいます。社会保険料は厚生年金と健康保険、それと介護保険料を合わせると約30%になり、これを労使折半ですから企業も労働者についての負担が増えます。それに労働者の手取りも15%減ることになります。
Q. なんで国民の負担が増えることを政府はするのでしょうか。
A. 厚労省は、社会保険に加入すれば病気休業になったとき傷病手当金が支給されるし、将来は老齢厚生年金も受給できるから長い目で見れば労働者のためになると建前上は言っています。しかし本音は厚生年金の財源を増やしたいのだと思います。
Q.それと130万円の壁はどうなりますか。
A.年収130万円以下の被扶養者は国民年金の第3号被保険者となり、国民年金保険料を支払っていなくても支払ったのと同じように扱われ、健康保険の被扶養者扱いのままで社会保険料の負担がありません。しかしこれを超えると社会保険料の負担が生じるという壁です。これは先生のところにも関係あります。
Q. 年金財政はそんなに大変なのですか。
A.確かに高齢化が進めば年金財政の規模は大きくなります。現在の厚生年金保険料の支払い区分は、収入によって異なります。その最高額の区分は、標準報酬月額65万円で、それ以上は全員同額になるのです。先生の支払っている保険料額と、年収が188億円もあるソフトバンクの孫さんや177億円もあるユニクロの柳井さんと同じです。こうした超高収入者には支払い能力に応じた保険料率で支払ってもらいたいものです。そうすれば年金財政はかなり改善できます。
日本のような豊かな国で国民のために財源を使えば、年金財政で困ることはないと思います。