本記事は、(株)通信文化新報が刊行する「通信文化新報」(2024年9月9日号)に掲載されています。
【通信文化新報】https://www.tsushin-bunka.co.jp/backnumber/
時代に沿ったアップデートを
Q. 百貨店の販売部門でマネージャーをしています。従業員の大多数が接客に従事しています。この度、従業員から「身だしなみのルールが厳しすぎるのではないか」との指摘がありました。
A.具体的にどういった内容でしょうか?
Q. 職務中は、制服の着用を義務付けています。百貨店の顔として、清潔感を意識してもらうため、大まかに以下を柱として、定めています。
①ヘアカラーは黒または濃茶とし、パーマ(強度な巻き毛等)を禁止する
②視力矯正の者については、男性は眼鏡着用可、女性はコンタクトレンズ着用とする
③名札(フルネーム記載)は必ず着用する
身だしなみ規定は就業規則とは別に設けており、他の細かなルールも併せて50ページ超となっています。
A. なるほど。それにしても、身だしなみ規則だけで50ページ超とは大したものですね。それだけ、従業員が守らなければならないルールがたくさんあるということですね。
Q. 長年の歴史の中で、積み重ねられてきたものです。
A.ところで、大まかに挙げたルールの中でも気になるところがありましたが、従業員はどのように訴えましたか。
Q.それぞれについて、①多様な髪形を許容して欲しい。②なぜ、女性というだけで眼鏡の着用が許可されないのか。③悪意を持ったモンスターカスタマーなどが従業員の名前をSNSにさらすリスクがある…といったことです。
A.確かに、従業員の訴えはよく理解できます。率直に申し上げますと、御社の規定は時代錯誤といっても過言ではありません。人権軽視と捉えられる箇所もあります。たとえば、①について、なぜ黒・濃茶色かつ巻き毛ではない毛髪が清潔とされるのか、根拠不明です。地毛がそれより明るい色や、強い縮毛の方も多くいらっしゃいます。外国人などが就業することもあるかもしれません。髪質のために、その人を否定する企業であると捉えられる可能性があります。②については、なぜ女性がコンタクトレンズ着用となっているのでしょうか?
Q.女性にはメイクを義務付けており、接客する上で眼鏡に比べて見栄えが良くなるものという考えです。
A.それについても、一体どこから出てきた考えなのか、根拠が不明です。そうであれば、男性についても眼鏡無しの方が見栄えが良いということになりますね?また、花粉症の時など、目が痛くてレンズを入れられないということもあるでしょう。そういった事を考慮せず強要すると、健康にも関わりますから問題になると思います。
Q.確かにそうですね。
A.③については、近年カスタマーハラスメントの問題が顕在化していますから、従業員の心配も良く分かります。なぜ、フルネームの名札を着用することにこだわるのですか?
Q.本名を見せることで、お客様に信頼感を持っていただくためです。
A.それも、性善説のうえでは成り立ちますが、残念ながら現在はそのようなことを言ってられなくなりました。スマホ・SNSの発展により、悪意を持った人に思わぬ形で危害を加えられることが増えています。従業員の身を守るという観点も、今後は必要になっていくでしょう。
Q.そうですね。お客様第一を考えるあまり、従業員の立場について理解が不足していました。これを機に、時代に合わせて身だしなみルールにアップデートしようと思います。
A.さらに言うならば、50ページ超のルールも、思い切って削ってみてはいかがでしょうか。人間、そこまで細かなことを守るのは難しいです。がんじがらめにしてしまうと、本来の業務以外のことに気を持っていかれてしまいます。もちろん、何でも良しとするわけではありません。御社の場合「百貨店の顔として、清潔感を重視する」という、会社として持つべき柱は残しておき、本当に必要なことだけを盛り込むのです。
Q.そうですね。先日、近所のドラッグストアで買い物をした際、従業員が個性豊かな髪形やアクセサリーをしていました。その社の方針で、従業員の個性を尊重するため、ルールを撤廃したそうです。でも、不思議と不快な気分にはなりませんでした。気持ちの良い接客だったので、そんなこと気にならないんですよね。
老舗百貨店を自負していますが、実際のところ時代の流れには逆らえず、客層や求められる商品・サービスは日々変わっています。わが社でも、これからの時代に向かった職場づくりを仲間や上司に提案していきたいと思います。