本記事は、全国保険医団体連合会が刊行する「月刊保団連」(2024年4月号)に掲載されています。

【月刊保団連】https://hodanren.doc-net.or.jp/publication/gekkan/2024-04/

雇用形態にかかわらず労働条件通知書の交付を

Q. 歯科医師を雇用したところ、「給料額が約束より少ない」と文句を言ってきました。約束の給料額は支払ったのですが、当人は「手取り額で約束したはずだ」と言ってきました。

A. 労働条件通知書あるいは労働契約書は渡しましたか?

Q. 渡していません。今までこのような文句を言ってくる人はおらず、口頭で約束して気持ちよく働いてもらっていました。

A. 「気持ちよく働いてもらっていた」と思っているのはおそらく先生だけでしょう。給料については9割の労働者が不満を持っているといわれます。多くの事業所では最初の給料日に不満が表面化します。このようなことを避けるため、昔から経営者には労働基準法で労働条件明示が義務づけられていました。その方法は書面です。最近では労働者が了解してくれればメール等の明示でもよくなりました。その際、賃金も必ず明示しなければなりません。昔からこのようなトラブルが多かったため、労働条件は書面で明示することになっていました。最近では高校などにも弁護士、労働組合を出前授業に招き、労働条件通知書の意義について説明してもらう学校もあります。労働条件通知書を学校に提示しない生徒にはアルバイトを許可しない高校もあります。今回改正され2024年4月年から労働条件明示のルールが変更され就業場所・業務の変更の範囲の明示等が追加されました。

Q. うちの医療グループはいくつか診療所があります。働く場所・業務については経営者から指示された内容で一生懸命やるのが当然ではないのですか

A. これまで経営者が勝手に就業場所・業務を変更出来たのは日本の終身雇用に基づく特殊性です。勝手に就業場所を変更することは労働契約違反という裁判例もあります。労働者にとっては就業の場所・業務は重要な労働条件です。したがって変更があるのかないのか、あるとしたら変更の範囲はどうなのかなど明示が義務付けられるようになりました。

Q. 大企業に勤務した友人などは、数年ごとに転勤していました。

A. そういうことは今後もあるでしょうが、勝手に転勤させることは契約違反になります。日本では転勤が比較的自由でした。いろいろな地域業務を体験しキャリアアップしていくシステムがありました。今後は労働者の希望も聞きながら転勤させることになるでしょう。外国では会社を移る転職が頻繁に行われます。以前、アメリカの保険会社の社長を務めた人から話を聞きました。外国人社員は「我が社の経営理念は何か、ミッションは?ビジョンは?」などといったことを、時間をかけて議論するそうです。「しかし、その割にはすぐ退職してしまう。」ということです。多くの国は転職することでキャリアアップしていくのが普通です。70%以上の人が転職することで年収が上がります。日本では転職することで会社は小さくなり、年数も下がるのが一般的です。

Q. としてはせっかく仕事に慣れてきたわけですから、なるべく長期に勤務してもらいたいと思っています。

A. 長期雇用システムの日本的雇用もいいところがありますから処遇・仕事など総合的に検討して雇用のルールなど極力書面化し、"見える化"して気持ちよく働いてもらうよう心がけることが大切だと思います。