※本記事は、㈱東京商工リサーチが発行する「ちば 優良企業ガイドブック(2025 冬号)」に特集記事として掲載されています。

【㈱東京商工リサーチ】https://www.tsr-net.co.jp/

年金は老齢年金だけではない

 年金相談を受けていると、何年か前から80歳代の女性から「50歳の息子」についての相談が目立つようになりました。

 「50歳の息子がひきこもりになっていて何も収入がない。障害年金を受けられるか」というものです。お母さんとしては「自分はもう80歳、息子はひきこもりで自活できない。この先私がいなくなったら息子はどうなる?せめて障害年金が受けられないか」というのです。

 むろん精神障害でも障害年金は受けられますが、条件があります。国民皆年金制度の日本では、何らかの年金制度に加入しているはずです。代表的なものは国民年金、厚生年金保険です。

 障害等級1、2級の人であれば、国民年金のみに加入している人は障害基礎年金、厚生年金保険に加入している人は障害基礎年金と障害厚生年金が受給できますが、初診日において年金制度に加入し、20歳以上であることなど受給要件を満たしていなければなりません。

出典:日本年金機構「障害年金ガイド」(https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/LK03-2.pdf)より抜粋

 実はこの初診日の証明が大変です。医療機関のカルテ保存期間は5年に短縮しており、すでに廃院になってしまった医療機関、診察していた医師が死亡した事例などでは、初診日の証明ができないケースもあります。証明できたとしても障害等級が障害年金を受給できるほど重くなければならず、とくに精神障害は判断が難しい場合が多いです。

 わたくしは社会保険労務士ですので、一応年金制度のアウトラインを紹介します。

出典:厚生労働省「年金制度基礎資料集」(https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/LK03-2.pdf)より抜粋

 年金は老齢年金だけでない!請求漏れの多い障害年金―ひきこもりになって保険料納付が大変な時は保険料納付免除の申請を!―

 先ほどの事例では、初診日に国民年金の保険料を滞納していたので受給には結びつきませんでした。国民皆年金の日本では、滞納を放置しておくことは最悪です。

 国民年金保険料16,980円(令和6年度)を納付するのは確かに大変です。保険料の納付が大変であれば、保険料の免除の申請をすればいいのです。免除期間中であれば「ひきこもり」になってしまっても、障害の程度によりますが障害年金受給の可能性があります。ただし、障害年金が受給できたとしても問題は解決しません。

破局の前兆か?ひきこもりの増大

 ひきこもり、全国で146万人と推計(内閣府調査) 

 内閣府は2023年3月31日、2022年度「こども・若者の意識と生活に関する調査」の結果を公表しました。

 ひきこもり状態にある人は、15~39歳で2.05%、40~64歳で2.02%おり、全国の数字にあてはめると約146万人と推計されています。

 ひきこもり対策はあるものの効果は上げられない

 ひきこもり対策には以下のことがいわれています。

 1.地域支援センターの設置… 各自治体が設置する「ひきこもり地域支援センター」では、ひきこもり状態にある本人やその家族に対して相談窓口を提供し、専門的なアドバイスやサポートを行っています。社会復帰のための支援プログラムやグループ活動の場を提供し、孤立を防ぐ取り組みも行っています。

 2.家族支援プログラム… ひきこもり問題の解決には家族の協力が欠かせないため、家族向けのカウンセリングや学習会が実施されています。家族が適切に支援できるようにするため、対応方法や心のケアについて学べる場が提供されています。

 3.就労支援プログラムの推進… ひきこもり状態から社会復帰するためには就労支援が重要です。厚生労働省が主導する「若者サポートステーション」では職業訓練やインターンシップ、就職活動のサポートを提供しています。また、個別の状況に応じた支援計画を立てることで、無理のない段階的な社会参加を促しています。

 ひきこもり対策の最大の障害は日本の政治哲学の根底にある「自己責任論」

 マーガレット・サッチャーが1987年のインタビューで述べた「社会というものは存在しない」という言葉は彼女の政治哲学や社会観を象徴するものとして広く引用され、日本においても取り入れられています。

 「社会というものは存在しません。存在するのは個人であり、家族です。そして政府には個人が助けを必要とする際にサポートを提供する役割があります。しかし、それはまず個人が自分を助け、責任を負うことが前提です。」という考え方です。

  自己責任と個人の主体性の強調

 サッチャーの思想は個人の自由と責任を重視する新自由主義(ネオリベラリズム)に基づいているといわれています。国家や社会全体に依存するのではなく、まずは個人が自分自身や家族の問題に責任を持つべきだというメッセージです。

 日本政府の本音は自己責任論

 今の日本政府もこの考えで行政を進めています。自助、公助、互助、共助といいながら実際は自助が強調されています。

出典:厚生労働省「地域包括ケアシステムの5つの構成要素と「自助・互助・共助・公助」」より抜粋

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/dl/link1-3.pdf

 体制はあるものの「自助」以外は、さまざまな制限があります。日本では生活保護の利用率は本来の利用対象者の20%程度で、ヨーロッパ諸国と比べるとかなり低くなっています。

 千葉県内に住む一人暮らしの女性が生活保護の申請をするために市役所に行きました。市の担当者から「預金はいくらありますか」と聞かれ、「もう8万円しかありません」と答えたところ、「2万円になったらもう一度きてください」と言われ、手続きには至りませんでした。そのうえ、残念ながら今の日本では生活保護を受けていると近隣の人から嫌がらせを受けることもあるようです。

 生活保護を受給していることでいじめられている方に、「『ハリー・ポッター』の原作者J・K・ローリングさんは生活保護を受けながら書いていたから気にするな」と励ましたことがあります。彼女は有名になる前、貧しいシングルマザーで、貧困のあまりうつ病を発症し、一時は自殺を考えるほどだったようです。しかし、生活保護を受けながら『ハリー・ポッターと賢者の石』を完成させました。彼女が大成功を収めることができたのも、困ったときの生活保護のおかげだったのです。

2025年問題、いよいよ本番に

 家族に押し付けることができない8050問題

 「8050問題」とは、80代の親が50代の子どもの生活を支えるために経済的にも精神的にも負担を強いられる社会問題です。子どものひきこもりを背景に、親子が社会的に孤立し生活が立ち行かなくなるケースが目立っています。

 8050問題が可視化されるようになったのは2017年に40歳以上で引きこもっている方の人数が把握されるようになったことがきっかけです。

 8050問題が社会問題とされる理由としては、次のようなことが挙げられます。

 ①子どもが家事ができない

 ②親の介護が進まない

 ③親の年金に頼って生活している

 日本政府も8050問題を認識

 8050問題を解決するため、厚生労働省がひきこもりの高齢化を解決するべくさまざまな対策を行っています。

 ①「ひきこもり地域支援センター」の設置

 ②「重層的支援体制整備事業」の開始

 ③20~30代の若年層の社会復帰支援

 世界で日本が初めて突入する超高齢化社会への対応―差し迫る破局を克服するために―

 大河ドラマ「光る君へ(2024年)」の紫式部が活躍した平安時代の日本の人口は約700万人で、今の千葉県の人口より少し多い程度です。

 今や日本の人口は約1億2000万人です。これが今後100年間で100年前の明治時代の人口3300万人に戻っていくと予想されています。何もしなければそうなりますが、人口減が進むなかでも日本全体を豊かにする方法はないのでしょうか。

出典:「国土の長期展望」中間とりまとめ 概要(平成23年2月21日国土審議会政策部会長期展望委員会)より抜粋

 2025年問題いよいよ本番に―2025年問題への対応―

 厚生労働省によると2025年問題とは団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、超高齢化社会を迎えることで発生するさまざまな社会問題を指します。

 厚生労働省は2025年問題への対策として潜在看護師等の復職支援を強化しています。具体的な取り組みとして、看護師等免許保持者の氏名や連絡先などの基本情報を都道府県ナースセンターに届け出てもらい、離職中の看護師等とつながりを保ち復職への働きかけを行っています。

 また、中小企業庁は2025年に70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者が約245万人となり、うち約半数の127万人が「後継者未定」の状況に陥る可能性があるとしています。

 わたくしは1946年生まれで、団塊の世代の1年前に生まれました。団塊の世代の多さに驚いた経験があります。わたくしが中学2年生で、新学期の時のことです。全校生徒集会があり、集まった新入生が真新しい制服で並んでいました。なんと、全校生の半数が新入生だったのです。

 以来、この世代は常に時代の流れを作ってきたと思います。1969年前後の学生運動、30代になればニューサーティー、40代になればニューフォーティーなどと呼ばれ流行を引っ張ってきました。2025年には団塊の世代約800万人全員が75歳以上になります。

 2025年問題では次のような問題が予想されています。

 ①社会保障費の増大や不足

 ②医療や介護分野の整備や少子化対策の必要性

 ③働き手の不足による医療や福祉分野の深刻な問題

 ④企業の業績への影響

出典:令和3年版高齢社会白書より抜粋(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/html/gaiyou/s1_1.html)

これからの日本の可能性は?

 差し迫る破局対応と少子高齢化対策のコロンブスの卵は労働基準法順守と所得の再分配

 2023年の日本の有給休暇取得率は63%で、世界11か国・地域の中で最下位となりました。有給休暇の支給日数は平均で19日間、取得した日数は平均で12日間です。

 東大教授から現在、早稲田大学の教授になった著名な労働法学者の水町勇一郎氏と総武線で隣り合わせになったことがあります。その時、雑談で先生がヨーロッパには有給休暇の取得率がないと話してくれました。有給休暇を取らない人がいるなど信じられないのです。

 日本に旅行に来ているヨーロッパ人に有給休暇の取得日数を聞くと6週間です。スウェーデンで働いていた歯科医師は有給休暇が2か月だったと言っていました。

 以前、オランダの介護施設を視察したことがありました。労働時間が短いことにとても驚きました。オランダに20年以上滞在している日本人の方が案内してくれましたが、わたくしが「オランダでは残業はどうなっています?」と聞いたところ「残業って何ですか?」と返ってきました。

 残業をなくし大幅賃上げは日本で可能

 財務省が2024年9月に発表した法人企業統計調査によると、企業の利益から税金や配当を差し引いた内部留保は600兆円を突破したそうです。

 内部留保600兆円の内、300兆円を賃金に回せば労働者の生活は劇的に改善し、経済も好循環します。

 人生100年時代豊かな日本の可能性はある。

 わたくしの高校時代、100歳以上の人口は泉重千代さんらわずか191人でした。

 それが現在2024年9月1日時点で日本の100歳以上の人口は9万5119人となり、過去最多を更新しています。これは昭和45年以降54年連続の過去最多記録となっています。

 100歳以上の高齢者の人口は、性別でみると女性が8万3958人で全体の88%あまりを占めています。男性は1万1161人です。

 現在、75歳以上の女性の25%が100歳まで生きると予想されています。高齢者が社会に参加し、いつまでも生き生きと暮らすことは可能です。

 高齢者の方も生きがいのある仕事は十分あります。現に働く人の多い長野県の男性の平均寿命は日本のなかでも上位となっています。高齢者にも楽しい仕事を大いにしていただきたいと思います。

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社会保険労務士法人 曽我事務所
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